【豊岡駅前小鳥店Ⅲ】内藤裕敬氏インタビュー

『豊岡駅前小鳥店Ⅲ』本番まであとわずか!作・演出をされている南河内万歳一座座長・内藤裕敬さんにインタビューをしました (聞き手 プラッツ居相)

 

『豊岡駅前小鳥店Ⅲ』作・演出の南河内万歳一座座長・内藤裕敬さん

―――― 内藤さんが平成22年に初めて「アートスクール」※1で豊岡市に来られてから、今まで足かけ6年になるんですけれども、一番最初に豊岡の街をご覧になられてどんな印象を持たれましたか。

もうそんなに前になるの?最初見たときは「飲み屋さん何軒くらいあるんだろう」と思いましたね。駅を出てすぐに焼き鳥屋があったりとか、飲み屋街があるとかじゃないじゃないですか。商店街もどんだけ続いてるのかとかもわからない。駅前にプラザがあって、商店街はあるけどそんなに人は歩いてないし。いったい駅からこの街はどんな風にひろがってるのかっていうのは想像がちょっとつかなかった。

(一目では想像がつかない街でしたか?)

つかないね。駅前っていうのは「ああにぎやかな所だな」とか「夜になるとこの辺賑わうんだろうな」とかわかるんだけどそんな感じもないし。他所は駅を出たら一目で大体なんとなくわかりますけどね。

―――― アートスクールⅠ、Ⅱ、それからⅢで集大成となる発表公演として『豊岡駅前小鳥店』が生まれました。翌年に『豊岡駅前小鳥店Ⅱ』が、2014年には日本劇作家大会では『Ⅱ´』。そして今回『Ⅲ』となりました。「豊岡駅前小鳥店」は色んな変遷を経てきたと思うんですけれども、その道のりはどういったものだったんでしょうか。

他の地域でも、オーディションをして地域の方と芝居を創るっていう試みはいくつもあるんです。そんな中でも豊岡のオーディションで受かった方というのは、やっぱり経験が浅い。他の地域では小さいながらも、劇団が2つ3つあったり、「学校で演劇やってます」っていう人が割と近くにいて、そういう人がオーディション受けにくる。まあ「間違った基礎勉強してるな」ってこともあるけれど、それなりに自分たちである程度の経験は積んでる。間違ったところを修正して、いい方へもっていくんだけど、豊岡の場合は基本的に舞台に立つ前の段階の訓練ができてませんから。でもそれやってると間に合わないので、お芝居の稽古をしながら基礎の稽古も一緒にやっていく感じです。基礎を学びながら本番に向かっていったのがそれが『豊岡駅前小鳥店Ⅰ』。

『Ⅰ』はね、出し物自体が30分だったんですよね。30分の出し物で、最初みてて「これ30分舞台に立っているのが精いっぱいだな」と思ったの。それ以上長いものでは、もたない。集中力や、いろんなものが。30分舞台の上で物語を維持するのがいかに大変なのかっていうのをまずは身をもって体験したら如何ですかということだよね。で、その時に基礎も一緒にやってったので、そこでないがしろにしてはいけないことをいくつか大分やりました。それで、「少なくともこれだけはちゃんと考えとかなきゃ、やっとかなきゃ」っていうのがいくつかみんなわかってきた。じゃあ少し発展させて、ハードルを一つ二つ高く上げて跳んでみませんかってやったのが『Ⅱ』だったんです。

(その辺りから繰り返し「イメージを大切にする」ということをおっしゃってましたね)

豊岡駅前小鳥店(Ⅰ)稽古風景

そうですね。『Ⅱ』やって、大分慣れてきた。というのと、なんとなくちょっと皆も欲が出てきたというか。「もうちょっとやったらもっと良くなるんじゃないかな」とういう感じがした。ただ『Ⅱ』で明らかに課題としてわかったのは、「身体が動かない」てこと。イメージをもったりとか、セリフを丁寧に言いましょう、相手役と丁寧に会話をしていきましょう、そのために大事なことをいろいろやってみたけど、明らかに体が硬い。気持ちが動いてるよりもその1割くらいしか身体が動かないというか。実は本当は身体のほうが敏感にビンと感じてそれが具体的なイメージ、感情となって台詞に乗っかるってことが多いんだけど、なんか頭の作業ばかりで身体が動かないことが課題として見えたのね。で、『Ⅲ』では身体もちゃんと動くようになれば「もう大分いいんじゃないの?」ってことになれるとは思うんだよね。

(仕上がり具合としては如何ですか)

まだまだこれからですよ。これからもっと皆少しこなれてくれば、もっと自由に動くようになると思うし、身体も敏感に反応するようになるだろうし。それを大胆に気持ちと一緒に身体も遊んでいけるようになればいいなと思いますね。

――――― そういった段階を経てきたんですが、『豊岡駅前小鳥店』という物語は、台詞の中で「ふるさと」という言葉が繰り返しでてきます。物語の根底にあるイメージだと思うんですけれども、このキーワードをとられた、テーマを選ばれた理由を教えてください。

内藤裕敬さんインタビュー豊岡っていう地域が抱えている問題というのは、やはり高校卒業したら大体神戸とか大阪とかの方へ出て行く人がほとんどでしょう。出て行った人が向こうで就職したりとか彼氏や彼女をみつけて、就職して家庭を持ったりとかそういうのが多いわけで。そうすると帰って来ないということになりますよね。だけど、帰ってきたくないわけじゃないと思う。僕も最初は駅前で「飲み屋何軒あるんだろうさみしいな」ってちょっと思ったけど、あっちこっちカバン買いに行ったりとかコウノトリ観に行ったりとか、車で走るうちにちょっと行ったら円山川があってそこに田園地帯が広がってる。畑の中にぽつんぽつんと家があったりとか、山があって、すごく…のどかできれいだと思いました。コウノトリが再生してるくらいだから、虫や小動物もいっぱい居て。なんていうか、網一個持って歩けば、田んぼの畔や小川にカエルやカニやエビや、ヘビまで居るわけじゃない。そういう所ってさ、もうほとんど身近にないって思ってましたから。そういうのがいっぱい残ってるなんてこんなにいい所ないって思うんです。

ということは、ここで育った人たちは必ずそう思ってる。だから、出て行って帰ってきたくないわけじゃないと思うんだよね。ただ帰って来てやることがあれば帰ってくるけれど、帰って来て遊んでるわけにはいきませんから。そうすると帰りたいけどここで生活をするには多分足りないものがあるんでしょう。ということは、帰ってきたいふるさとにならなくてはいけませんよね。ここがね。そうなったら、皆帰ってくると思うんです。答は出ないけれど、じゃあ帰ってきたいふるさとにはどうやったらなれるのかって。ただ、出て行って帰って来ないってことに泣き言言ったってしょうがないわけじゃないですか。そうするとふるさとの方は、帰ってきたいふるさとでいようと頑張らないといけませんし、出て行ったほうは機会があれば帰りたいとかいつか帰りたいという思いをちゃんと持ち続けて、心の中でふるさとを大事に思うことが大切ですよね。

そういうバランスが、人口が減ってくるととれなってくる。「想い」のバランスがね。想いよりも現実のほうが勝っちゃって、「出て行っちゃって、もう帰って来ない」ですとか、出て行った方は「帰ったって何もないし」みたいな。想っている気持ちのバランスが悪くなりますよね。自分にとってのふるさとっていうのを、ここに居ない人も、ここに暮らす人も、もう一回振り返ってみる。そういうきっかけになるような作品になればいいなと思っています。

(豊岡という名前がついてる作品だけれども、根底にながれるものはきっとどこにいる人にとってもすごく共感できる内容になってますよね)

豊岡駅前小鳥店Ⅱ

小鳥ですからね、主人公は。実は、人間なんですけど。今そこでスズメが5羽6羽、道端でエサをつついてると思っててハッと気づいたら、もうどこかに飛んで行っちゃって居なくなっているとか。それでまた次の日の朝みたらそこでエサつっついてる。なんか鳥って、どうしてだか忽然と姿を消してまた気が付いたらそこにいるっていうのがありますよね。田舎でも都会でも、そこに暮らす人たち、特に若い人。やっぱりハッと気が付いたら何処へともなく姿を消してしまって、何年も見かけないとか。ひょっこり気が付いたら「あれ?あの人じゃない?何年振りだろう。何処に行ってたかと思った」って人いますよね。そういう、気まぐれな鳥たちはいったい故郷をどう思っているんだろう。それをモチーフに描いたら、おそらく何かが…、ふるさとというものと若い人、またはふるさとそのものみたいなものがうまく表せるんじゃないかな、と着想時点ではそう思ったんです。

――――― そこからどう広がっていくかはぜひご覧いただきたいところですね。市民プラザは、市民との演劇活動に開館当時から取り組んできましたが、次のステップというか、段階としてどういった可能性があると思われますか。

演劇に取り組むひとを増やしていくってことですね。色んな企画や取組みをプラザがやるときに、参加したいと手を挙げるひとを増やしていく事がまず一番。そのためにはみんな参加したい、チャレンジしたいような企画を考えて、それを皆さんに提供していく事が大事だと思います。

(来年また新たな演劇プロジェクトが動いているかもしれませんね)

そうだね。そうなったらいいですね。

(ぜひこれからもとりくんでいきたいと思います)

 

内藤さん、貴重なお時間ありがとうございました!

*1 「アートスクール」・・・地域の舞台芸術活動に活躍する人材の発掘と育成を目的とした舞台芸術講座。平成22年から市民プラザが企画し、演劇プログラムも開講している。

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『豊岡駅前小鳥店Ⅲ』

2016年2月20日(土) 19時開演(開場18:30)
2016年2月21日(日) 14時開演(開場13:30)
場所 豊岡市民プラザ ほっとステージ
料金 一般 1,000円 高校生以下 無料(要整理券)
*チケットのご予約・お問合せは電話、E-mailにて承ります。
*10名様以上の団体の方の割引サービスもございます。お気軽にお問合せください。

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